教授
あいさつ

常に「患者さんと」「ご家族と」「仲間と」学び、考え、
ともに語らい、神経診療の明日を切り拓くため、
日々歩み続けていきましょう。

教授伊藤 信二

脳神経内科が扱う診療領域は、誰もが経験する「頭痛」から、難病中の難病とされる「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」まで多岐にわたります。これらの診療を支える研究領域もまた、RNA干渉を用いた遺伝子・蛋白発現解析など超ミクロの世界から、最新の画像解析技術とビッグデータに基づく脳内ネットワーク解析まで、学際領域を巻き込み広く展開されています。このような時代にあっても、私たち脳神経内科医が常に携えているのは、1本のシリコンゴムのハンマーです。腱反射もBabinski徴候も、指鼻指試験もRomberg徴候も、ハンマーに象徴されるベッドサイドでの診察技術と臨床推論は、100年以上前にJean Martin Charcotをはじめとする大先輩が、入念な観察と詳細な病理学的検討から臨床的意義を裏付けた知識と経験の上にあまねく成り立っています。文字通りの「温故知新」を、私たちはベッドサイドで、また最新の論文やデータから、日々体感しています。
また脳神経内科では、分刻みの脳卒中急性期診療の場で階段を駆け下りる時もあれば、数十年にわたり進行する変性疾患患者の生活や心理面の支援を世代を超えて考えることもあります。このような時に思い浮かぶのは、かつてヒヤリとした場面で「教わった」患者さんの顔や所見であり、その時その患者さんをどう診るかを、ベッドサイドのすぐ隣で見せて下さった、「師匠」の語り口と「手つき」であったりします。
幸い脳神経内科は、最近30年で生化学、遺伝子・分子生物学、免疫学の進歩の恩恵を最も享受できた診療科の一つです。パーキンソン病、多発性硬化症などは、新たな治療薬の開発により、30年前なら寝たきりだった病期に、歩いて通院できる疾患となりました。皆さんの時代であるこれからの30年は、遺伝子治療や分子標的治療、未知の革新的な治療により、ALSなどの変性疾患や認知症すら根治しうる時代になるでしょう。しかし、1つの知見はより多くの疑問を生むのがこの世界の常で、課題は増える一方です。また、アルツハイマー病の新薬の法外な価格が暗示するように、これからの医療現場では、社会正義やSDGsを考える視点、個々の医師・患者の哲学と社会の価値観のすり合わせが、否応なしに重要となるでしょう。さらにCOVID-19のパンデミックが露呈した、患者数が医療資源を圧倒した場合の「救える命」の選択の問題は、もし大震災や戦争が起こったら、私たちがなじんだ規範を根本的に揺るがすことに繋がります。
そのような中で、昨日よりも今日、今日よりも明日、少し豊かになれる新しい価値を、「患者さんと」「ご家族と」「仲間と」さらに周囲の全ての人々と、ともに学び、考え、語らいながら、多方向に見出して行ける場を、この新しい病院の診察室に、病棟に、医局に創りたいと思っています。

教室概要

脳神経内科の「臨床的思考・洞察力」を培いつつ、
「地域に根ざした診療・研究」をともに
創っていきましょう。

岡崎医療センターは、徳川家康公の故郷である愛知県岡崎市の南部、JR岡崎駅のほど近くに2020年4月に新設された、藤田医科大学の第4教育病院です。病床数400床24診療科を有し、岡崎市南部と額田郡幸田町を中心に、安城市東部、西尾市、蒲郡市の二次救急を担い、平日約12台、土・日曜は約20台/日の救急搬送を受け入れています。また訪問看護ステーションを併設し、高齢化・過疎化が進む地域の在宅医療・介護に積極的に対応すべく、今まさに病院全体、さらには地域ぐるみで体制を整えつつあります。
脳神経内科の歴史も始まったばかりですが、2020年度の外来初診患者は700人を超え、脳梗塞急性期の入院が124人。1日当たりの在院患者数は15~25人です。近隣に常勤専門医を擁する施設が少ないため、認知症・変性疾患の診断・治療・介護導入のニーズが非常に多く、初年度の紹介患者はパーキンソン病70名、認知症80名以上に達しました。またてんかんや頭痛など、外来診療を主体とするcommon diseaseの鑑別を一から求められることも多く、難治例、進行期の患者さんが集中しがちな大学病院(本院)に比べ、最前線でいわば白紙の状態の患者さんについて、それまでの研修で培ってきた神経学の知識・診察技能を自律的に駆使し、臨床的思考・洞察力を最大限に働かせて、鑑別診断から治療に導く醍醐味を存分に体得して頂けます。 また訪問診療医や訪問看護ステーション等との密な連携の経験を、将来プライマリ・ケアや訪問診療など地域での活躍を志す先生方に役立てて頂きたいと考えています。難しい症例を掘り下げて発表したり、先端の臨床試験・研究に参加するなど、大学病院ならではの活躍の機会は、藤田医科大学脳神経内科学教室、およびばんたね病院との協力のもと確保できます。これから創っていく病院ですので、臨床・研究・研修全てに、若い皆さんのアイデア大歓迎です。一緒に頑張りましょう!